本格的に気温が下がり始め、「冷え性」の人にとってはつらい季節となりました。冷え性の定義や女性に多い理由、対策とはどのようなものでしょうか。医師の市原由美江さんに聞きました。
西洋医学で「冷え性」は病気でない
Q.「冷え性」とは何でしょうか。
市原さん「西洋医学では、『冷え性』は病気として扱われません。『冷えているという状態』を所見として捉えています。そのため、冷え性の明確な定義はないのですが、一般的には『全身や手足など体の一部が冷える感覚を自覚すること』で、それによる不快感やつらさを伴う状態のことをいいます」
Q.冷え性を放っておくと、重篤な病気につながることはありますか。
市原さん「冷えがあり、倦怠(けんたい)感やむくみなどの症状を伴えば甲状腺機能低下症の可能性があります。関節リウマチなどの膠原(こうげん)病につながることもあります。また、動脈硬化による血行不良が原因で、冷え性になることもあります」
Q.冷え性は女性に多い印象があります。なぜでしょうか。
市原さん「冷え性の男女比は調査によって異なりますが、女性は男性よりも2~4倍多い傾向にあります。女性は熱を生み出す筋肉量が少ないことや、女性ホルモンの変動に伴う自律神経のバランスの乱れによって、冷え性が起こりやすくなります。ダイエットで偏った食生活をすると筋肉量が減るため、冷え性に悪影響を及ぼします」
Q.「手足が冷える」という人もいれば、「全身が冷える」という人もいます。冷え性には、いくつかのタイプがあるのでしょうか。
市原さん「手先や足先が冷える『末梢(まっしょう)型』、全身が冷える『全身型』に大きく分けられます。末梢型は比較的若い女性に多く、栄養バランスの乱れや過度なダイエットによって筋肉量が減り、熱を生み出す能力が低下して起こります。また、加齢や糖尿病、高血圧、脂質異常症などによって動脈硬化が進むと、足先や手先の血流が不足するため冷えを感じることがあります。膠原病の症状として手先の冷えを自覚することもあります。
全身型は、加齢や運動不足によって代謝が落ちている場合、むくみによって血流が滞っている場合に起こります。甲状腺機能低下症が原因のこともあります」
Q.自分でできる、冷え性のチェック方法があれば教えてください。
市原さん「『手足が冷たい』『冷房に当たると冷えの自覚が悪化する』『夏でも寝るときに靴下が欠かせない』『カイロなどの防寒グッズが欠かせない』などの状態を自覚できれば、冷え性の可能性があります」
Q.冷え性に有効と思われていて、実は間違っている世間の認識はありますか。
市原さん「足を温める目的で靴下を履いて寝ることがあります。寝ている間は汗をかきやすく、足の裏からも熱を放出させるために、汗をかきます。個人差もありますが、ぴったりと足に密着した靴下は熱がこもり、足からの汗が増えて、汗が気化するときに熱を奪い、足を冷やすことがあるので逆効果です。血行に影響を与えないためにも、足を圧迫しない、ゆったりとした靴下を選びましょう。
重ね履きも足の動きを制限するほどであれば、血行を悪化させてしまうため、注意が必要です」
Q.冷え性を予防・改善するための方法を教えてください。
市原さん「まずは、栄養バランスのよい食事を取り、規則正しい生活を送ること、冷たい飲み物や食べ物はなるべく避けること、首元や手首、足首を温めることなど、基本的なことが挙げられます。また、ウオーキングや筋肉トレーニングで筋肉量を増やすこと、体を圧迫する衣類は避け、重ね着をして温度調節をすること、シャワーではなく、お風呂にしっかりと浸かることが有効です。東洋医学で冷えは『冷え症』として治療の対象です。漢方外来を受診するのもよいでしょう」
(オトナンサー編集部)
市原由美江(いちはら・ゆみえ)
医師(内科・糖尿病専門医)
横浜鶴ヶ峰病院付属予防医療クリニック副院長。自身が11歳の時に1型糖尿病(年間10万人に約2人が発症)を発症したことをきっかけに糖尿病専門医に。病気のことを周囲に理解してもらえず苦しんだ子ども時代の経験から、1型糖尿病の正しい理解の普及・啓発のために患者会や企業での講演活動を行っている。また、医師と患者両方の立場から患者の気持ちに寄り添い、「病気を個性として前向きに付き合ってほしい」との思いで日々診療している。糖尿病専門医として、患者としての経験から、ダイエットや食事療法、糖質管理などの食に関する知識が豊富。1児の母として子育てをしながら仕事や家事をパワフルにこなしている。オフィシャルブログ(https://ameblo.jp/yumie6822/)。