人間と同様に、犬や猫の体調も気圧の変化に影響される場合があります。
ここではペットの神経の病気と気圧の関係について獣医師/獣医学博士の松木直章先生に解説していただきます。
てんかん
「てんかん」が示す病気の範囲はとても広いため、ここでは「特発性てんかん」について触れます。
特発性てんかんは、脳の構造には異常がないものの、体質的(おもに遺伝的)に脳内の電気が乱れて発作を繰り返す病気です。一方、脳の奇形や脳腫瘍などで発作を繰り返すものは「構造的てんかん」と呼びます。
特発性てんかんは犬に多く(犬全体の2%か それ以上)、猫には少ないです。特発性てんかんの犬のうち、おそらく1割程度が気圧の影響を受けているようです。
ただし、発作を起こしやすいタイミングは気圧が下がる過程、気圧が下がりきったとき、あるいは気圧が上がる過程など犬によって違います。
「遠くの海上で台風が発生したときに発作を起こしやすい」などと飼い主さんが分析していることもあります。猫のてんかんは気圧の影響をあまり受けないようですが、例外はあるかもしれません。
なお、てんかんの発作で有名なのは「強直間代発作(きょうちょくかんたいほっさ)」で、犬や猫の様子が突然変わり、横倒しになって手足を激しくばたつかせ、口から泡を吹き、ときには尿や便を漏らすパターンです。
これ以外にも、手足のどれか1本だけが突然引きつる、突然体を掻いたり咬んだりする、突然凶暴になるなど様々なパターンの発作がありますが、てんかんの発作だと思われていないこともよくあります。
先天性水頭症
チワワなどの小型犬でみられる脳の奇形です。脳の中に水が溜まり、脳が内側から圧力を受ける(脳圧が上がる)ことで発作を起こしたり、元気や食欲がなくなったりします。
気圧が急に下がると脳圧が上がり(低地から高地に運んだポテトチップスの袋がパンパンになるのを想像してください)、不調につながりやすいです。
先天性水頭症の犬の大部分は、普段は元気に暮らしているため、てんかんの発作を起こしても上記の特発性てんかんと思われていることがあります。
チワワなどの小型犬が、気圧が下がる過程で発作や体調不良を起こしやすい場合は獣医師に相談してください。
脳圧を下げる薬で状況を改善できるかもしれません。
脊髄空洞症(せきずいくうどうしょう)
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが起こしやすいことで有名ですが、他の犬種でも起こります。脊髄の中に水が溜まり、その痛みや不快感によって首を掻きむしったり、歩き方が不自由になったり、元気や食欲がなくなったりします。
やはり気圧が下がる過程で不調が起きやすいです。脊髄の内圧を下げる薬や、外科手術で治療します。
気圧が下がる前に痛み止めの薬を追加するなどの対処をすることで、犬の不快感を和らげることができます。
参考文献:犬と猫のてんかん読本:日本獣医生命科学大学・長谷川大輔教授 著
松木直章(まつきなおあき)
まつき動物病院(東京都千代田区)院長/獣医師 /獣医学博士
元東京大学教授。2017年に早期退職して動物病院を開業した。
専門は神経疾患と内分泌疾患。