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冬はやる気が出ない? 「冬季うつ」という病気は本当に存在するのか

「冬になるとネガティブ思考になる」「冬季うつかもしれない」といった投稿が話題になっています。「冬季うつ」という病気は存在するのでしょうか。

「冬季うつ」は存在する?

「冬になるとネガティブ思考になる」「この季節は何もやる気が起きない」「冬季うつかもしれない」といった投稿がネット上で話題になっています。「冬季うつ」という病気は存在するのでしょうか。また、通常の「うつ病」とは何が違うのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

「冬眠」のようなうつ状態

Q.冬季うつとは、どういうものでしょうか。症状や原因、なりやすい人を教えてください。

田中さん「冬季うつとは、動物の冬眠のようなうつ状態です。パンやお菓子などの炭水化物を大量に食べる、疲れっぽさが抜けない、やる気が出ない、気分が晴れないなどの症状がみられます。医学的には、秋から冬にかけて日照時間が減少し、脳内のセロトニンの働きが弱まってくることが原因の一つと考えられています。

ちなみに『秋から冬にかけて、いまいち調子が出ない傾向』は誰にでも経験がありますし、どのような人が冬季うつになりやすいかを証明したデータはありません」

Q.冬季うつとは、そもそも病気なのでしょうか。

田中さん「冬季うつ、というと先述した『秋から冬にかけて、いまいち調子が出ない傾向』を含みますので、一概に病気であるとは言えません。しかし、まさに動物の冬眠という言葉がぴったり合うような、数週間以上にわたって(ひどいと何カ月も)寝込んでしまう状態に至ることがあり、病気と診断される場合があります。

冬季うつの人が病気と診断されるには、まずはアメリカ精神医学会の基準などに従って、うつ病と診断される必要があります。同学会の基準では具体的に、憂鬱(ゆううつ)な気分、意欲の低下、『申し訳ない』という自責感、『消えたい』『死にたい』という気持ちなど、9項目中5項目以上の症状が2週間以上にわたって持続することが確認されます。

その上で、毎年のように冬になると寝込むという『反復性』と、次の5点にまとめられる『季節型の特徴』が確認されなければなりません。それは(1)気力の減退(2)過眠(3)過食(4)体重増加(5)炭水化物渇望です。病気レベルの冬季うつの場合、広く『季節性感情障害』、あるいは『季節性うつ病』という病名で呼ばれることもあります」

Q.通常の「うつ病」とはどう違うのでしょうか。

田中さん「通常のうつ病の場合、不眠、食欲低下、体重減少が典型的にみられます。ところが、冬季うつの場合、特に季節性うつ病を発症した場合、通常のうつ病とは逆で、過眠、過食、体重増加がみられるのが特徴です。

その点を医学的に詳しく解説しましょう。私たちの体には、活動しているときに働く交感神経とリラックスしているときに働く副交感神経の2種類の自律神経があります。心身にストレスがかかり、脳内のセロトニンの働きが完全に弱まると、うつ病を発症するわけですが、それと同時に自律神経もバランスを崩してしまうのです。

そして、通常のうつ病の場合は交感神経が異常興奮し、眠れない、食べられない、体重が減少するという症状がみられ、季節性うつ病の場合は逆に、副交感神経が異常興奮し、寝過ぎる、食べ過ぎる(特にパン、ご飯、お菓子などの炭水化物を大量に食べる)、体重が激増するという症状がみられます」

Q.治療はどのようにするのでしょうか。

田中さん「冬季うつの対策は、何よりも日光を浴びることです。カーテンを開け、ブラインドを上げ、部屋の中に日光を取り込むことから始めましょう。できれば、日中は散歩、買い物などで外出するとよいでしょう。

その際、スマホや携帯電話を見ながらうつむいて歩くのはやめましょう。ある研究では、顔を上げて街の景色を見ながら、大股でゆっくり呼吸を意識して歩くようにすると、うつの気分が晴れることが分かっています。

季節性うつ病と診断された場合には、通常のうつ病に準じて治療が進められます。ただし、休養と投薬治療以外にも、冬季うつの対策として挙げたように、日光を浴びたり、ゆっくり散歩したりするなどして少しずつ活動性を上げていく工夫が必要になります」

Q.医療機関を受診した方がよいのは、どのような場合でしょうか。

田中さん「冬季うつがひどくなって数週間以上も寝込めば、季節性うつ病と診断されるかもしれません。うつ症状と、先述した『季節型の特徴』がみられ、日常生活に支障が出たら、ぜひ精神科の外来を受診してください」

Q.春になると自然治癒するものなのでしょうか。その場合、また冬になると再発する可能性があるのですか。

田中さん「冬季うつは原則的に、春になれば自然治癒します。春になってもうつの状態が長引くようであれば、別の原因によるうつ病を発症している可能性がありますので、精神科外来で診察を受けるようにしてもらえればと思います。また、残念ながら、冬季うつは再発することが少なくありません。しかし、次のような予防策がありますので、各自試みてください。

もともと『秋から冬にかけて、いまいち調子が出ない傾向』がある人は、季節性うつ病を発症するリスクが高いと考えられます。予防策の第一としては、日照時間が短くなってくる秋のうちから、日光を浴びるようにしておくことです。冬になり、寒くなってきても面倒くさがらずに、意識的に(手帳などを使って計画して)外出するとよいかもしれません」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)
医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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